最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)306号 判決 1958年6月20日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人山内忠吉、同岡崎一夫の上告趣意第一点について。
憲法二八条は勤労者の団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障しているが、この保障も勤労者の争議権の無制限な行使を許容し、それが国民の平等権、自由権等の基本的人権に優立することを是認するものではなく、従って勤労者が労働争議において不法に使用者側の自由意思を抑圧するような行為をすることは許されないこと及び同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものであるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し暴行脅迫をもってこれを妨害するがごとき行為は、右同盟罷業の本質とその手段方法を逸脱したものであって、正当な争議行為と解することのできないことは、すでに当裁判所の判例が示しているところである(昭和二三年(れ)一〇四九号同二五年一一月一五日大法廷判決、刑集四巻一一号二二五七頁、昭和二四年(オ)一〇五号同二七年一〇月二二日大法廷判決、民集六巻九号八五七頁)。原判決の確定した事実によれば、被告人三名は駐留軍横浜陸上輸送部隊に勤務する日本人労務者により組織された同部隊労働組合の組合員であったが、同組合は昭和二八年七月二八日から七二時間ストライキに入ったところ、同月二九日午前六時四〇分頃判示場所の右部隊バス通用門からストライキに参加しなかった同部隊勤務の日本人運転手渡辺飯外六名が駐留軍軍人、軍属等を輸送するため横浜駅に赴くべく各一台のバスを運転し一列縦隊で順次出門しようとするや、被告人三名は右通用門前においてピケラインを張っていた組合員約三〇名位と共謀の上、その出門を阻止しようとして右門前において、一、被告人山口はバスを一台も出すなと呼びながら組合員数名とともに右渡辺の運転するバス前面の道路上に寝転んで、その進行を停止せしめ、二、被告人青木は所携の赤旗竹竿を右渡辺運転のバス運転台窓からバスのハンドルめがけて突き込み、三、被告人峯村は組合員数名とともに右渡辺運転のバス内に乗り込み、車外の組合員等と呼応して同人を運転台窓から多衆の威力を示し且つ数名共同してバスの外に押し出して転落せしめる暴行を加えて、渡辺飯をしてバスの運転を不能ならしめると同時に、同人に続いてバスを運転して出門しようとした相馬統一外四名の出門をも不能ならしめ多衆の威力を示して右渡辺外五名の運転業務を妨害したというのであって、かかる被告人らの所為が、争議権の行使として許された範囲内の行動ということができないことは前記判例の趣旨に徴し明らかであるばかりでなく、不法に威力を用いて使用者側の業務を妨害したものというのほかないのであるから、原判決には所論のような違憲、違法はないと云わなければならない。(なお昭和二七年(あ)四七九八号同三三年五月二八日大法廷判決参照)
同第二点は、違憲をいうが、その実質は事実誤認、訴訟法違反、法令違反の主張に帰し、同第三点も、違憲をいうが、単なる法令違反の主張に外ならないから、いずれも刑訴四〇五条の上告適法の理由とならない。
また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)